数年前、私は母から一冊の絵本をもらいました。

それは、

「オットー 戦火をくぐったテディベア」

という、ちょっと不気味なテディベアが表紙の、
とてもインパクトのある絵本でした。

ストーリーは、

オットーは、ドイツの工場で作られたテディベアで、
デビッドという男の子のお誕生日プレゼントとして、
両親から贈られます。

その日から二人は親友になり、デビッドの友達のオスカーも交えて、
3人で遊んだり、いたずらしたりと、楽しい日々を過ごすのですが、

戦争が始まり、そんな楽しい日々が一転。
ユダヤ人だったデビッドは両親とともに、強制収容所に送られてしまいます。

オットーはオスカーに託されるのですが、
爆発で吹き飛ばされて、オスカーとも離れ離れになってしまうのでした。

その後、オットーはいろいろな人の手に渡り、数十年後、奇跡が起こります。

物語がハッピーエンドで、ほっとしましたが、戦火をくぐる過程で、
ボロボロになっていくオスカーがかわいそうで、とても胸が痛くなりました。

そして、私が特に好きなシーンは、アメリカ兵に連れられて、
アメリカに渡ったオットーが、娘のジャスミンにプレゼントされ、
かわいがってもらっているシーンです。

「やっと、また、自分の居場所が見つかったんです!」

貧しい家庭なのか、段ボール箱をベッドにして寝かされた、
オットーのとてもうれしそうな顔が大好きです♪

テディベアは、やっぱり人(特に子ども)にかわいがられることが、
使命というか、生きがいなのだと、分かるシーンでした。

トミー・ウンゲラー
(本名は、ジャン・トマ・ウンゲラー)

作者はトミー・ウンゲラー(アンゲラーとも発音されています)で、
1931年11月28日、フランスのアルザス地方、ストラスブールに生まれます。

3歳の時、お父さんが亡くなり、
同じアルザス地方のコルマール(祖母の家)に移り住まれるのですが、
9歳の時、第二次世界大戦が始まり、町はドイツ軍に占領されてしまい、
学校ではフランスの教育は禁じられ、ナチスの教えを受けることになってしまいます。

戦後、フランスの教育が復活するも、アルザスの話し方は禁じられていたようで、
このような経験は、後のトミーの作風にも大きな影響を与えます。

その後、バカロレア試験(大学入試)に失敗したことから、放浪の旅に出ることを決意。

スケッチをしながら、ノールカップ、ラップランド、ロシアを放浪したそうです。

しかし、旅先のアルジェリアで、重い病にかかったことがきっかけで、
ストラスブールの装飾美術学校に行くことに。

ところが、1年後、理由は分かりませんでしたが、退学となってしまいます。

ただ、この頃、トミーはアメリカに興味を持ち、アメリカ文化センターを訪れるなど、
アメリカに憧れていたそうで、

1956年、25歳の時、ついにアメリカに渡ると、翌年、
絵本「The Mellops go flying」を出版し、たちまち人気を博します。

そして、その後も、
「Crictor(へびのクリクター)」
「Adelaide」
「Emil(エミールくんがんばる)」
「The Three Robbers(すてきな三にんぐみ)」
「Rufus」「 Le Geant De Zeralda(ゼラルダと人喰い鬼)」

など、子ども向きの本を次々と発表し、
数多くの賞を受賞されています。

日本でもたくさんの絵本が翻訳されているので、
ともて人気の絵本作家だったのですね!

その他、商業用ポスターや、デザインも数多く手がけられているのですが、
少年時代、ドイツに虐げられた経験からか、上流社会やマジョリティに属する人々に対して、
強烈な皮肉を込めた作品が多いようです。

ベトナム戦争中に描いた風刺画

上流階級の人々への皮肉

虐げられた者から見た平和

「オットー」が子ども向けの絵本にしては、陰のある、
グロテスクなイラストだったのが、ちょっと分かったような気がしました。

「オットー」はただの創作ではなく、トミー・ウンゲラーの、
魂がこもった作品なのでしょうね。

オットー 戦火をくぐったテディベア